【1】
クリスマスをひかえた、ある午後のこと。
キャプテン☆ハートンが、強いヒーローになるためのトレーニングをしているところに、ひとりの女の子がたずねてきました。
「やあ、ノエルちゃんか。どうしたの?」
「ねえ、ハートン、お願いがあるの。ハートンはヒーローだから、お願いを聞いてくれるんでしょう?」
ハートンは、“ヒーロー”と呼ばれて、ちょっと自慢げにこう答えました。
「もちろんさ! オイラはなんたって“ヒーロー”だからね。よい子のお願いはなんでも聞いてあげるよ」
すると、ノエルちゃんは、うれしそうな顔になって、
「ほんとう? だったらお願い。私、イルミネーションが見てみたいの」
「イルミネーション?」
「本で読んだの。大きな街に行くと、クリスマスには街中の木やたてものに、赤や青や金色のライトがいっぱいついて、とってもきれいなんだって。ねえ、ハートン。そんなステキなイルミネーションがこのタウンでも見られるようになったら、きっとみんなもよろこぶと思わない?」
「なるほど。そりゃあ、ヒーローにぴったりの仕事だね! よし、このオイラにまかせとけ! きっと、タウンのみんなが笑顔になるような、とびっきりのクリスマスイルミネーションを作ってみせるよ!」
【2】
次の日から、ハートンはイルミネーションづくりを始めました。
ハートフルタウンの街はずれには、小高い丘があって、そのてっぺんには、大きなモミの木が立っています。ハートンは、その木をライトでかざって、イルミネーションにすることにしました。
モミの木のてっぺんに太いロープで輪っかをとりつけて、そこからひとつずつ、細いロープでつないだ赤や青や金色のライトをぶらさげるのです。
もちろん、そんなに高いモミの木の上まで、何度もハシゴにのぼってたくさんのライトを取り付けるのは、かんたんなことではありません。
「でも、この大きなモミの木なら、街中どこからでも見ることができるし、ノエルちゃんもよろこぶはずだ。そして、クリスマスにいっせいにライトをつけたなら、きっと、街中のみんなもオイラを拍手かっさいでほめたたえるにちがいない!」
そんなことを想像すると、力がわいてきて、ハシゴの怖さも忘れることができました。そうやって、何日もの間、ハートンはモミの木にのぼっては、ひとつずつライトを結びつけ続けたのです。
やがて、クリスマス・イブがやってきました。すべてのライトの取り付けが終わったのは、もう、おひさまもかたむきはじめた時間でした。
「よし、なんとか間に合った! あとはてっぺんにお星さまをつければ完成だ!」
【3】
何日もかけて、何度も何度もハシゴにのぼりつづけていたハートンの足は、ふらふらでした。でも、クリスマスツリーのてっぺんにお星さまがついていなかったら、なんだかかっこうがつきません。ハートンは最後の力をふりしぼって、ハシゴにのぼっていきました。
そして、木のてっぺんに、星をとりつけようとしたその瞬間のことでした。
突然、びゅううっ! と、強い風が吹いてきて、ハートンのハシゴをぐらりと揺らしました。
「あっ!あぶない!」
ハートンは、とっさに、モミの木のてっぺんにつけた輪っかにしがみつきました。すると、そのはずみで、輪っかがほどけてはずれてしまったのです!
「あああっ!しまった!」
【4】
なんということでしょう!
何日もかけてハートンがひとつずつ結んだ、赤や青や金色のライトは、一瞬のうちにすべてバラバラになり、ひとつ残らず、モミの木を滑り落ち、丘の下まで転がり落ちていってしまったのです。
「あああ……おいらの、イルミネーションが……!」
ハートンは、へなへなと、力が抜けてしまいました。
【5】
夜がやって来ました。
モミの木の下でひざを抱えるハートンのところに、ノエルちゃんがやってきました。
「……ノエルちゃん。……ごめんね……おいら……」
そこまで言って、ハートンはうつむいてしまいました。
どうにも情けなくて、悲しくて、これ以上しゃべったら泣き出してしまいそうだったからです。
ところが、ノエルちゃんは、明るい声でこう言いました。
「すごいわ! ハートン!」
「……ええっ?」
「さあ、いっしょにみんなのところへ行きましょう!」
ノエルちゃんは、きょとんとしているハートンの手を取ると、丘をかけおり始めました。
【6】
タウンまでおりてきて、ハートンはびっくりしました。
なんと、丘から転がり落ちていった、赤や、青や、金色の、たくさんのライトたちが、お店や、家や、木などに引っかかって、町中が見事なイルミネーションに彩られていたのです!
「おっ、ハートンがきたぞ!」
「このイルミネーション、ハートンがやったんだろう?」
タウンのみんながハートンのそばにかけよってきました。
「こんなにたくさんのイルミネーションを、あっという間にしかけちゃうなんて、いったいどうやったんだい?」
「このところ、丘で何かやっているとは思ってたけど、まさか、こんなすごいしかけを作っていたなんて!」
「こりゃ、とびきりのクリスマスイルミネーションだ!」
「ありがとう、ハートン!」
いつの間にか、ハートンのまわりには、タウン中の人が集まってきていました。そして、だれからともなくわきあがった拍手が、やさしくハートンをつつみこみました。
(いや、おいらは、そんなつもりじゃ……)
もじもじしているハートンに、ノエルちゃんがぎゅっと抱きつきました。
「やっぱりハートンは、私たちのヒーローね!」
はずかしくて、うれしくて、ハートンは、またうつむいてしまいました。
===おしまい===
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