【1】
ここは、ハートフルランドの港町。
ケトルくんは、ひとり、さんばしに座ってぼんやり海をながめていました。
ケトルくんには、ひとつ、心配なことがありました。
それは、大好きなポットおばあちゃんが、先月カゼをひいてから、ずっと元気がないということでした。
「やあやあ、ケトルくんじゃないか。どうした、うかない顔して」
声をかけてきたのは、海賊のブタヒゲ船長でした。
そこで、ケトルくんは、おばあちゃんの話をしました。
「なるほど、そりゃあ心配だ。よし、それじゃあわしがいいことを教えてやろう。ハートフルランドに伝わる伝説の話だ」
「伝説?」
「そう。ハートフルランドのどこかに、キラキラ輝く『黄金のくだもの』と呼ばれる実があるらしい。どこにあるかは知らないが、それを食べたものは、あらゆる病気もたちまち回復し、体中に元気がみなぎるという。もし、その実を手に入れることができたら、きっとおばあちゃんも元気になるに違いないぞ!」
「キラキラ輝く『黄金のくだもの』か……」
ケトルくんは、決心しました。
「ありがとう、船長。ぼく、『黄金のくだもの』をさがしに行くよ!」
【2】
ケトルくんは、まず最初に、ピギーさんのところに行くことにしました。
農場で働くピギーさんなら、いちばんくだもののことに詳しいと思ったからです。
「こんにちはピギーさん」
「やあ、ケトルくん。どうしたの?」
「実は聞きたいことがあるんだけど。ピギーさんは、キラキラ輝く『黄金のくだもの』って知ってる?」
「『黄金のくだもの』?」
ケトルくんは、ピギーさんに、ブタヒゲ船長に聞いた伝説のこと、そしてポットおばあちゃんのためにその実を探していることを話しました。
「なるほど、それは心配だね。でもボクは知らないや。うちの畑のカボチャだったらたくさんあるし、栄養も満点なんだけど」
「そうか……わかった。ありがとう、他の人に聞いてみるよ」
「だったら、コケットさんに聞くといいよ。種まき飛行機を運転していて、いつも街中を空から見ているからね」
「そうだね、ありがとう!」
「ポットおばあちゃん、早く元気になるといいね!」
ケトルくんは、コケットさんのところに向かいました。
【3】
ケトルくんは、コケットさんの働く飛行場にやってきました。
「こんにちはコケットさん」
「よう、ケトルくんじゃないか。どうしたんだい」
「実は聞きたいことがあるんです。コケットさんは、キラキラ輝く『黄金のくだもの』って知りませんか?」
「『黄金のくだもの』だって?」
ケトルくんは、ピギーさんに話したように、コケットさんにも『黄金のくだもの』の話をしました。
「なるほど、そりゃあ心配だ。でも、残念ながらボクは知らないな。金色の「ほ」が美しい小麦ならあるんだけど」
「そうか……わかった。ありがとう、他の人に聞いてみるよ」
「だったら、マーガレットさんに聞くといいよ。植物のことなら街でいちばん詳しいからね」
「そうだね、ありがとう!」
「ポットおばあちゃんによろしく伝えてくれよ!」
ケトルくんは、マーガレットさんのところに向かいました。
【4】
ケトルくんは、マーガレットさんの花屋にやってきました。
「こんにちはマーガレットさん」
「あら、ケトルくん。今日はどうしたの?」
「マーガレットさんは、キラキラ輝く『黄金のくだもの』を知りませんか?」
「『黄金のくだもの』ですって?」
ケトルくんは、マーガレットさんにも『黄金のくだもの』の話をしました。
「そうなの、それは心配ね。でも、ごめんなさい。私は知らないわ。金色の花が咲くマリーゴールドの花ならあるんだけど」
「そうか……わかった。ありがとう、他の人に聞いてみるよ」
「だったら、キャプテン☆ハートンに聞くといいんじゃないかしら。きっとおばあちゃんを元気にするアドバイスをくれると思うわ」
「そうだね、ありがとう!」
「ポットおばあちゃん、お大事に!」
ケトルくんは、キャプテン☆ハートンのところに向かいました。
【5】
ケトルくんが、キャプテン☆ハートンの家に着いたときには、あたりはもう暗くなり始めていました。
「こんにちはハートン……」
「おや、ケトルくん。こんな時間にどうしたんだい?」
「ぼく……今日一日、ずっと、キラキラ輝く『黄金のくだもの』をさがしていたんだ。おばあちゃんを元気にしたくって……。だけど、どこに行っても、だれに聞いても、なんにもわからないんだよ……ハートンも、知らないよね?」
ケトルくんは、泣き出しそうな気持ちになりました。
すると、ハートンは、ケトルくんの肩に手を置いて、言いました。
「ごめんよ、ケトルくん、ぼくも伝説の『黄金のくだもの』は見たことがない。でも、君のその気持ちは、きっとポットおばあちゃんにも伝わると思うよ。さあ、今日はもう遅いから、いっしょに帰ろう」
「そうだね……ありがとう……」
そう言ってケトルくんがふり返ろうとしたとき、ハートンがケトルくんを呼び止めました。
「そうだ、ケトルくんにこれをあげよう」
それは、キラキラ輝く、小さなバッジでした。
「これは、だれかのために本当にがんばった人だけがつけることのできる、正義の『黄金のバッジ』だよ。ケトルくんにはよく似合うね!」
そうしてケトルくんとハートンは、ポットおばあちゃんの待つ家に向かいました。
【6】
ケトルくんとハートンが家に着くと、そこにはおどろくことが待っていました。
なんと、ポットおばあちゃんの部屋に、ピギーさんと、コケットさん、それにマーガレットさんがいるではありませんか!
「みんな!どうしたの!」
「よう、お帰り、ケトルくん!」
「みんな、ケトルくんにおばあちゃんのことを聞いて、心配でお見舞いにきたのよ」
「うちの畑のカボチャを食べれば元気になるかと思ってね!」
ケトルくんは、びっくりして、あんぐりと口をあけたまま、ポットおばあちゃんの方を見ました。おばあちゃんは、やさしくほほえんで、言いました。
「ケトルちゃん、みんなに聞いたよ。今日一日、私のためにがんばってくれたんだってね。本当にどうもありがとう。あなたのその気持ちと、みんなのやさしさのおかげで、私はもうすっかり元気になったよ!」
ケトルくんは、思わずおばあちゃんの胸に飛びこみました。おばあちゃんは、ケトルくんをぎゅっと抱きしめると、またみんなの方を向いて言いました。
「みなさん、今日は私のために本当にどうもありがとう。先月カゼをひいてから、なんだか気持ちが弱っていたんだけれど、みんなのおかげですっかり元気になりました。そのお礼に、明日はパーティを開きたいと思います。どうぞみなさん、ご家族やお友だちを誘っていらしてくださいね!」
【7】
次の日、ポットおばあちゃんの家には、ハートフルランドのみんなが集まっていました。テーブルには、おいしそうなかぼちゃのスープと、こんがりいい匂いの小麦のパン。そして、部屋のいたるところには、マリーゴールドの花がきれいに飾り付けされていました。
「おや、ケトル、そのバッジどうしたんだ?かっこいいな?」
お父さんのストーブさんが、ケトルくんの胸のバッジを見つけて言いました。
「へへへ、ないしょ。でも、このバッジをつけてると、元気になれるんだ!」
「へえ、そんなすごいパワーがあるバッジなのか。そりゃ、『伝説の黄金のバッジ』ってとこだな!」
そう言って、ストーブさんは笑いました。
つられて、ケトルくんも声をあげて笑いました。
ポットおばあちゃんも、ハートンも、みんな、みんな、笑顔になりました。
それはそれは素敵な、キラキラ輝く『黄金の笑顔』でした。
おしまい
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