【1】
「ああ、つかれた!」
町の入り口に到着したストーブさんは、つかれてその場にすわりこんでしまいました。
「遠いところおつかれさま。大変だったでしょう」
出迎えにきてくれた、町長さんが言いました。
ここは「ハートフルタウン」。ハートフルファームからいくつも山を越えたところにある、きれいな町です。ストーブさんは、ここの町長さんと友だちで、ときどきこの町にやってきては、得意の発明で町の乗り物を作ったり、修理したりしているのです。
ハートフルタウンには、大きな学校や、警察や、消防署があります。おいしいレストランや花屋さんやクリーニング屋さんもあって、とても便利でステキな町です。でも、ハートフルファームからここまで来るためには、いくつもの山をぐるりとまわりこんで来なくてはなりません。
にぎやかな町が大好きなストーブさんですが、この山越えの道にはいつもうんざりしていました。
「せめてファームと町の間に、真っ直ぐの道があればよかったのにねえ」
町長さんのその言葉を聞いたとき、ストーブさんの頭に、ひとつのアイディアがひらめきました。
「じゃあ、ファームと町をあっという間に行き来できる、トンネルを作ればいいんじゃないですか?」
「ええ?あの大きな山にトンネルを掘るんですか?」
町長さんはびっくりしました。
【2】
思いつくと、すぐに実行にうつさずにはいられないストーブさん。ファームに戻ると、さっそくトンネル掘り名人の、モグラの“ディギー”と“ダギー”の兄弟を呼びました。
ディギーとダギーは双子の兄弟なので見た目はそっくりなのですが、お兄さんのディギーが、なんでも「へいきへいき!」と引き受けてしまう明るい性格なのに対して、弟のダギーは、ちょっぴりあまのじゃくで、いつもお兄さんと反対のことを言いたがります。
ストーブさんが、
「やあ、ディギー、ダギー。あのでっかい山にトンネルを掘って、ファームと町をあっという間に行き来できるようにしたいんだけど、できるかな?」
と聞いたときも、お兄さんのディギーはにこにこして、
「へいきへいき!ぼくらが本気を出せば、どんな山だって、あっという間にトンネルができますよ!」
と胸をはりましたが、弟のダギーは、
「でもぼくらが本気を出さなかったら、いつまでたってもトンネルはできないけどね!」
と、反対のことを言うのでした。
そんな兄弟でしたが、トンネル掘りの腕は超一流です。トンネルを掘り始めてひと月もたったときには、もう立派なトンネルができて、そこには線路までしかれていました。
【3】
「こりゃすごい!この線路に鉄道を走らせればいいってわけだな!」
と、よろこぶストーブさんに、ディギーが言いました。
「ちがいますよ、これに乗っていくんですよ!」
ディギーが指さしたのは、汚れてすすだらけになった、オンボロのトロッコでした。
「ええ!こんなボロっちいトロッコで山の向こうまで行けるのかい?」
ストーブさんはびっくりしましたが、ディギーはにこにこしたままこう言いました。
「へいきへいき!けっこうこれで速いんですよ!」
「でも、速いだけですぐこわれるかもしれないけどね!」
ダギーが言いました。
「さあ、しゅっぱつ、しんこーう!」
ディギーとダギーと、ちょっと怖がっているストーブさんを乗せて、トロッコは、ガタゴトと線路の上を走り出しました。
【4】
「な、なんかガタガタゆれてるぞ?」
ストーブさんが言うと、ディギーとダギーが答えます。
「へいきへいき!ちょっとゆれてるだけですよ!」
「でも、もっとゆれたらひっくり返っちゃうけどね!」
だんだんトロッコのスピードが速くなってきました。
「な、なんか、速すぎないか?あぶないぞ?」と、ストーブさん。
「へいきへいき!ちょっと坂がきつくなっているだけですよ!」と、ディギー。
「もっと坂がきつくなったら真っ逆さまだけどね!」と、ダギー。
こんどはトンネルの中が真っ黒のすすで暗くなってきました。
「何も見えない!ま、ま、まっくらだ!」
「へいきへいき!ちょっとくらいだけですよ!」
「このままずーっとまっくらかもね!」
そして、トロッコは猛スピードでトンネルの中をかけぬけていきました。
それからどれくらいトンネルの中を走ったでしょう、ストーブさんが怖くてもう泣き出しそうになったとき、
「ああ!出口だ!」
遠くに、小さな光が見えてきました。
ところが、ストーブさんが笑顔になったのもつかの間、次の瞬間、すすで真っ黒だったストーブさんの顔は、真っ青になりました。
「ええ!た、大変だ!せ、せ、線路がなくなってるじゃないか!!」
なんと、トンネルの出口で、線路は終わっていたのです。
【5】
真っ黒のかたまりになったトロッコと3人は、ど───ん、と、猛スピードでトンネルから空高く、飛び出しました。
「ぎゃあああ──!たすけてくれえ───!」
ストーブさんは叫びました。
「へいきへいき!」
ディギーは言いました。
「へいきじゃないかもしれないけどね!」
ダギーは言いました。
【6】
ばっしゃ────ん!
3人のトロッコが落ちたのは、ハートフルタウンの池の中でした。
町の人は、とつぜん空から大きな黒いかたまりが落ちてきたので、びっくりして集まってきました。
「なんだなんだ?」
「いん石か?」
「宇宙人の襲来じゃないか?」
町の人のざわめきの中、池の水ですすが流されたストーブさんとディギーとダギーが、水の中から顔を出しました。
【7】
「ストーブさん?ストーブさんじゃないですか!どうしたんですか、こんなところで!」
町長さんが、ストーブさんに気がついて声をあげました。
しばらくぼうぜんとしていたストーブさんですが、水に浮かんだトロッコを見て、それからディギーとダギーを見て、最後に町長さんの顔を見ると、にこっと笑ってこう言いました。
「へいきへいき!あっという間についちゃいましたよ!」
それを聞いたディギーとダギーも、にこっと笑って、声をそろえてこう言いました。
「ちょっとだけ怖かったかもしれないけどね!」
おしまい
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